1. 自然環境と社会環境
(1) 自然環境・人口・民族
カンボジアは東側にベトナム、西側はタイ、北側はラオスと国境を接し、南側はシャム湾に面している。国土は約18万平方キロメートルで、中央部地帯はほぼ平坦な地域が占め、低い丘陵地帯は南西部のシャム湾及びタイ国境周辺並びに北東部のベトナム国境周辺に広がっている。メコン河が南北に流れ、北西部に巨大なトンレサップ湖を擁している。
気候はモンスーン気候で、雨季と乾季に大きく分けることができる。雨季には増水した水が、トンレサップ河を逆流し、トンレサップ湖の広さは3倍にも拡大する。
人口は1998年時の国勢調査で約1,140万人、人口増加率は年2.4%である。度重なる内戦の影響もあり、人口構成は20歳未満が全人口の54.6%をしめ、女性人口が52%と多いのが特徴である。民族的には大半がクメール人の他、中国系、ベトナム系、チャム系に分かれる。宗教は上座部仏教を信仰し、少数ながらイスラム教、キリスト教も信仰されている。
(2) 歴史的背景
1863年に保護領となってから、1953年にいたる約90年間、実質的にフランスが統治権を握っていた。もともと中国南東部を出身とする華僑が多く居住していたが、フランス当局が華僑のビジネスを保護し、中国の政治的な危機もあって、華僑人口は増大していった。またフランス保護領下ではベトナム人の移住を優遇した。それらのベトナム人は、行政機関の中堅及び下級官吏の他、ゴムプランテーションの労働者、都市部の職人、メコン河河畔の漁民であった。1945年に日本軍によるフランスの武装解除により一時的に独立を宣言するが、再びフランス保護領となった。その後1953年に正式に独立してから1970年までの王制下での一時的な政治の安定の後、1975年からはクメール・ルージュの支配による都市壊滅、集団虐殺が繰り返され、国家の要職にあった人々、高等教育を身につけた人々は本人のみならず家族共々犠牲になった。教育施設がすべて閉鎖され、図書の印刷が不可能になり、クメール語の図書も減少した。また農村の伝統的教育機関であった仏教寺院も破壊され、僧侶の多くが弾圧を受けて殺害された。人材育成の基礎はこうして失われてしまった。その上、内戦時代に何百万個という地雷が田畑に撒かれ、地雷埋設地では生産活動が不可能となった。その後、1979年から89年まではカンボジアはベトナム軍の影響下にあったため、この時代は西側諸国との正式な国交はなく、国際社会の強い要請でベトナム軍が撤退するまでカンボジアではベトナム人官吏が厳しく国民を統制し、ベトナム語が第二言語として教育されていた。このような歴史を経て1991年のパリ和平協定以後、UNTACの暫定統治、難民の帰還が開始されて以来、現在まで復興の努力が続けられている。しかしながら、高等教育を受けた人材の激減、長い間の外国人による支配により、カンボジア人の行政能力は著しく欠如し、崩壊した社会経済システム、破壊されたインフラ施設を再整備することは難しい。
(3) 内政
1) 新政府の発足
1993年選挙の結果、連立政府を構成したフンシンペック党と人民党の確執は1997年7月の武力衝突に至り、国際社会からの信頼を失った。その後、日本の4項目提案をはじめとする国際社会の事態打開への努力が実を結び、1998年7月に総選挙が実施され、最大議席数を獲得した人民党のフン・セン前第二首相を首相とするフンシンペック党との連立政権が樹立された。新政権は「経済政権」と銘打ち、経済運営(税制強化、森林資源管理、軍・行政改革、行政サービスの効率化、脱税・密輸の取締、汚職追放等)及び経済開発(インフラ、人材育成、農業、電力等が中心)に関する「新政策綱領」を1998年11月に発表した。更に1999年2月の支援国会合の際にはこれら諸改革の進捗状況をモニターするために四半期毎のドナー国との会合の開催を表明した。その後、モニタリング会合は1999年10月に第2回目が開催され、関係政府機関、各ドナーの間における情報の共有については改善される兆しとなっている。
2) 治安の回復
軍事上の最大の不安定要因であったクメール・ルージュが1999年初旬には事実上崩壊したことから、政府軍の改革を進める環境が整った。これを受けて、政府は多数の兵士及び、警察官の削減計画を打ち出し、兵員については、2000年から2002年の3年間で約3.2万人を削減、警察官については、2.4万人を削減する計画となっているが、退役軍人や削減された警官、公務員などを吸収できる労働市場は現状では存在しない。
これについては世界銀行がイニシアティブをとって退役軍人支援信託基金(Demobilization Trust Fund)を創設し、退役一時金を用意し、銃器・武器の没収のためのコストと研修プログラム運用基金に充てるという計画が出されたが、そのアクションプランと長期の予算確保が不明確であり、現在まで問題は山積している。退役軍人・警官の処遇は治安維持とも関係していることから、慎重な対応がもとめられる。
カンボジア政府とドナーが合同で実施しているサブワーキンググループなどで、引き続き計画の進捗状況をモニタリングし、今後の政府関係諸機関とドナーとが綿密な検討を重ね、計画の実効性を高めることが重要である。